涅槃教説話

ある家に、とても美しい女の人が訪ねてきました。
豪華な服を着て、見るからに気品のある女性でした。
その美女は「私は吉祥天です。福徳を授けに来ました。」といいます。

幸福の女神の到来ですから、家の主人は大変に喜んで、家の中に招き入れました。

ところが、そのあとから、もう一人の女性が入ってこようとしています。

こちらのほうは、見るからにみすぼらしい、醜い女性でした。

「おまえは誰だ。」と主人が問うと

「私は黒闇天(こくあんてん)。私の行くところ、必ず災厄がおきる貧乏神です。」
と後からきた女性が言いました。

家の主人は、貧乏神に家の中に入ってこられてはたまりませんから、「おまえなんか、とっとと消え失せろ。」とどなりました。

すると、その黒闇天は大声をあげて笑いました。

「あなたは馬鹿です。さっき入って行った吉祥天は、わたしの姉です。わたしたち姉妹はいつも一緒に行動しています。わたしを追い出せば、姉の吉祥天だってこの家から出て行きます。」

そして、そのとおり、吉祥天と黒闇天は肩を並べて、その家を去って行きました。



夢に天女の像と交接した優婆塞『日本霊異記』

和泉の国・泉の郡の血渟の山寺に、吉祥天女の土製の像がありました。
聖武天皇の御代に、信濃の国の優婆塞がその山寺に移り住みました。

優婆塞は、この天女の像を流し目で見、愛欲の心を募らせ、ひたすら恋い慕い、一日六度の勤めごとに、「天女のような顔の美しい女性を私に与えてください」と祈り願っていました。

この優婆塞、ある夜天女の像と交接した夢を見ました。
あくる日、天女の像をよく見ると、裳の腰のあたりに、不浄のものが染みついて汚れていました。
優婆塞はそれを見て、恥ずかしさに、「わたしは天女さまに似た女が欲しいと願っておりましたのに、どうして畏れ多くも天女御自身がわたしと交接されたのですか」と申し上げた。しかし、実際恥ずかしくてこのことはだれにも言いませんでした。

ところが、弟子が秘かにこのことを聞き知ってしまいました。
後日、その弟子が師となる優婆塞に礼を尽くさないので、師は叱って追い出しました。
弟子は追われて里に出て、師の悪口を言いふらし、吉祥天女との情事を暴き立てたました。

里人はこの話を聞いて、行って真偽のほどを確かめました。
はたしてその像を見ると、淫水で汚れていたのです。優婆塞は事を隠しきれずに、詳しくわけを話しました。

深く信仰すると、神仏に通じないことはないということが本当であることがわかる。
これは不思議なことである。
涅槃経に、「多淫の人は絵に描いた女にも愛欲を起す」と述べられているのは、このようなことを言うのである。


吉祥天の家系

【父】般闍迦/パーンチカーーーーー【母】鬼子母神
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【兄】婆藪仙人 |ー吉祥天/ラクシュミー  |ー【妹】黒耳天/黒闇天
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     |ーー|             |ー【義弟】閻魔王
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     |  |ー【夫】毘沙門天
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    最勝童子  独健童子  那吨童子  狗抜羅童子 甘露童子


※以下、2014年5月30日追記

ついに黒闇天と出会いました。
2014-05-30-13-00-26
画面左、女神形が黒闇天です。