見仏日:2014年5月29日

前回、充実の奈良見仏であったものの、そこは流石、奈良。見所満載過ぎて宿題が残ってしまいました。
一番の大物の宿題が「なら国博」で開催されている鎌倉仏像展。

有名ドコロの鎌倉仏像達が大挙して奈良にやってきております。
一番有名な鎌倉大仏さんは来てませんが(照)(恥)


僕は時代の区分で言うと「鎌倉時代」の仏像が好みなんですが、これまで地域としての鎌倉(関東)を意識して見仏したことはありませんでした。
名仏は関西にある。という思い込みもあったからなんですが、関西の仏像しか知らない僕にとってこの展示はまさに目からウロコ。

「カッコいいっ!」「なまめかしい!」「盛れてる!(古い?)」「しなやか!」「見たことない!」

と、かなりセンセーショナルでした。

僕の関東在住の仏友で足しげく関西に遠征して、勿論それ以上に鎌倉に通ってる方がいてるんですけど、鎌倉の仏像の素晴らしさはブログやメールで聞かされておりました。が「百聞は一見にしかず」ですね。

ちょっと鎌倉をナメてました。すいません!鎌倉すげーっ!

●まずは鎌倉国宝館からやってきた劇画タッチな十二神将達。
展覧会のタイトルにあるエキゾ。目玉の色もカラフルで、顔付きがまぁオリエントムードたっぷりにエキゾでした。

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とくに戌神なんて元横綱の曙を細くしたようなポリネシアンな感じ。

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服装は簡略された感じがありましたが、どの神将も立ち姿が美しく、見栄を切ったポーズがカッコよく、粋が入ってます。
江戸時代の補作もあるようなので粋な感じはそのせいかもしれません。



●清雲寺からやってきた毘沙門天。
こちら衣装の作りが精緻で、目深に被った兜はなんと!着脱可能です。
三十三間堂の「ばす仙人」の頭巾が着脱式で有名ですが、僕はこういうギミックは大好きです。

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細かく作られた衣装のデザインも抜群にカッコ良くて、腰にまかれた『バムフラップ(尻当て/敷き皮/尻皮とも言う)→山伏や山仕事をする人がお尻のトコにブラ下げている敷き物』は虎の革!
ヴィヴィアン・ウエストウッドのデザインかと思いました!パンク!

あと参考図像として紹介されていた清雲寺の本尊『滝見観音』が粋で優雅でとてもしなやかなんです。ひと言で言うとリラックス。三昧の境地をこのようなリラックスした姿で表現してるのかな?とおもいます。

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●阿弥陀寺からやってきた文殊菩薩。
幼さの中に利発過ぎて、フテブテしさを感じさせる表情がメチャクチャ良いです。頭の良さを表情で表現したら、この顔つきしかないですね。
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この文殊さん、獅子にも乗ってないし、智恵の剣も盛ってませんが、頭上に五つ髷を結っているので「五髷(ごけい)文殊」とわかります。
でももし髷がなくても、この表情なら文殊菩薩を連想したと思います。実物にはあったことないけど、まさにこの人は文殊菩薩なのです。(なんで国宝じゃないんだろ?)



●そしてそしてお待ちかね円応寺の初江王!
でたーっ!鎌倉仏の最高傑作といっても過言じゃないですね。!この展覧会のタイトルにある迫真とは初江王に捧げられた言葉です(多分)

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●檀拏幢(だんだとう)/人頭杖


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浄玻璃鏡と共に閻魔大王の必携アイテムとして閻魔堂に配置されたり、地獄絵にも描かれる男女の頭が着いた杖。閻魔大王に裁かれる亡者の生前の善悪を証言するとも、亡者の虚偽の証言を見破るとも言われています。
檀拏幢自体は「地蔵十王経」にも出て来る由緒正しいアイテムで女神形は『黒闇天女』男神形は『泰山府君』だそうです。

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な、なんと!『黒闇天女』がこんなトコロにいらっしゃったとは・・・もうビックリ!
ずっとどんな女神なんだろう?と図像を探していたので、お目にかかれて感激です。
『黒闇天または黒耳天』は閻魔大王の奥さんで福徳女神・吉祥天の妹です→ブログ内リンク:吉祥天


●供生神(くしょうじん)
千本閻魔堂のご住職のお話では(TV見仏記より)人間が生まれた瞬間に毛穴から入り、人間の善悪を記録するそうです。
二神一対で「司録(しろく)・司命(しみょう)」とも言われています。
円応寺の供生神は「同名(どうみょう)・同生(どうしょう)」と呼ばれ、毛穴から入るのではなく両肩に乗って善悪の記録をしてるんだそうです。

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僕の見知ってる供生神はどれも怖そうな感じなんですが、この供生神は告げ口が得意なイジワルそうな感じの顔付きをしていて、これまた初江王とは別角度の迫真です!


とても、とてもブログの一記事では紹介しきれないのですが・・・

●建長寺の『白衣観音』(仏画)が超イイです!ヤバい!
ターコイズブルーの髪に透明感のある衣にセクスィなポーズ。
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清雲寺の本尊『滝見観音』同様、リラックスしていてとてもなまめかしく、官能的な感じで妖しげです。
あまり仏画には魅せられない僕ですが、この白衣観音にはすっかり魅入られてしまいました。



●浄光明寺の「観音菩薩」
今回の展覧会の図録の表紙を飾っている仏像です。

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ややうつむき加減で坐像なのに腰のひねりが入っていて、反った足の指先の表現や、下半身の動きに共鳴するように波打つ衣のヒダの表現などとても優美な像です。
頭上が水瓶っぽいからもしかして「勢至菩薩?」ともおもいましたが・・尊名はおいといて。
お寺では阿弥陀如来の脇侍を勤めている方だそうです。
参考図像でお堂での写真が紹介されていましたが、放射光背を背負って観音菩薩・勢至菩薩と対で阿弥陀如来の両脇にいらっしゃいました。見事な三尊です。


伽藍神、天神、達磨大師や鎌倉仏独特の表現?法衣垂下像、説法印の釈迦如来などなど・・どれもこれもすばらしくて見とれていると、いつの間にか博物館の滞在時間が予定より推しまくっていました。
うっかりしていると五劫ぐらい経っていて浦島太郎か五劫思惟阿弥陀(の髪型だけ)になってしまうのではないかというぐらい。没頭していました。

最後に

●東慶寺からお越しの『水月観音』
自然な形で岩に身を委ねたリラックスした姿勢で水面に映る月を眺めている姿の観音だそうです。

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如来や菩薩はその優しげな表情で見仏人に安心感や勇気を与えてくれたり、明王の憤怒形で激励されたり気持ちが引き締まったりしますが、この『水月観音』のように菩薩自身のリラックスした自然な姿を眺めるのも、見仏人にとっては心が安らぐものですね。
平和でとても穏やかな気持ちになりました。


蛇足ですが、半跏踏み下げとも椅像とも坐像ともつかないこの態勢は鎌倉仏像の特徴のひとつで「遊戯坐(ゆげざ)」という呼び方が提唱されているそうです。